二人が応接室に来る前に茶菓を準備して厨房に籠もっていれば大司教と顔を合わせなくて済む。
 さらに二人はクロウの呪いを解くために要塞からソルマーニ教会へ移動し、数日間は滞在するはずだ。うまくいけばドロテアと二人きりで話すことができるかもしれない。
(そうとなれば、早く茶菓の準備をしないといけませんね。今の時間なら厨房に料理人さんもいると思いますし、お菓子はお願いして用意してもらいましょう)
 リズは大神官と鉢合わせしないために大急ぎで茶菓の準備に取り掛かる。

 足早に病室のある建物から厨房のある建物へ移動していると、丁度ヘイリーとマイロンが大司教とドロテアを出迎えている最中だった。リズは建物の影からその様子を観察する。
「遠路はるばる王都からお越し頂きありがとうございます」
 ヘイリーとマイロンが挨拶をするとドロテアが笑顔を見せた。
「いいえ、司教。ここまで甚大な被害が出ているのですから、来るのは当然です。日々魔物からこのスピナを守ってくれている第三部隊シルヴァは私たちの誇りですから」
 ドロテアが艶やかに微笑むとマイロンは顔を伏せて頬を赤く染めた。美しい彼女に微笑み掛けられて心が高鳴らない男性はいない。特に彼女を見慣れていない男性は毎回同じ反応をする。


「ところで患者の容態はどうなっている? 司教は元大司教で昔のような力はないだろうが、尽力したのだろうな?」
 大司教は顎髭を撫でながら、嫌みったらしい口調でヘイリーを一瞥する。昔はヘイリーの方が上だったが、立場が逆転してからは彼を見下しているようだ。
 リズはもともと大司教のことはあまり好きではなかったが、ヘイリーに対する態度を見てその思いはより一層深まった。
(ひどいです。司教様はいつだって信者や困っている人のために力を尽くしてくださっているのに)
 リズは下唇を噛みしめながら眉尻を下げる。その一方で当の本人は嫌な顔一つせずに柔和な表情を浮かべていた。