薄暗く灯りもほとんどない地下牢で、リズは混乱する頭を必死に働かせて状況を整理していた。

(誰かが、叔母様から預かっていたスペアの鍵を盗んで保管室に侵入し、聖杯を破壊しました。もう一つの鍵を持っている叔母様は、礼拝堂にいたことを付き人の聖騎士が立証済みです。叔母様にはアリバイがあります。その一方で私には誰とも会っていない空白の時間があって……)

 リズの記憶が正しければ聖物の器物破損は聖国の法律には適用されず、教会の評議会が裁きを下すことになっている。
 どういう裁きが下されるのかはまったく想像がつかない。
 ましてやこんなことが起きるなんて前代未聞だ。だが、この世に二つとない聖物を壊したのだからきっと重罪に処されるだろう。


「スペアの鍵もそうですが、あの修道女たちの証言で周りは私が犯人だと確実に思っていますね……」
 はあっと深い溜め息を吐いて俯く。

 日はとうに暮れて、天井付近にある小さな窓からは真っ暗な景色が見える。
 夜になって気温が下がり、ひんやりとした空気が辺りを包み込んで肌寒い。暖を取るために牢屋の隅っこで膝を折って座り込み、自身を抱き締める。
 冷たくなった指先に息を吹きかけて温めていると、外の扉の開く音が聞こえてきた。

 音に反応してリズはゆっくりと顔を上げる。
 コツコツと階段を下りてくる音が響き、オレンジ色の灯りがこちらへと近づいてくる。