ヘイリーの意見は正しい。確実に救うためには隊員一人一人を天秤にかける必要がある。
 頭ではちゃんと分かっている。それでも、リズは全員を救いたい。
 ただの自己満足だと非難されるかもしれないが、毒に苦しむ聖騎士たちの心を和らげたい。
 リズは拳に力を入れると顔を上げてヘイリーを見据えた。
「司教様、私はここで諦めたくありません。手を尽くしてもいないのに命の選別をするなんて絶対嫌です。なので、患者さんたちの苦しみが少しでも和らぐように氷枕を作っても良いでしょうか?」
 薬でなくとも何か別の形で聖騎士たちの苦痛を和らげたい。
 瞳に強い光を宿してリズが必死に提案するとヘイリーが虚を衝かれたような顔をした後、柔和に微笑んだ。

「……もちろん。ええ、もちろんですよ、リズ。……すみません。私はとうに諦めてしまっていました。あなたが頑張ろうとしているのに、打つ手がないと嘆いている場合ではありませんね。自分にできることをやらなくては。まずは解毒薬を作ります」
 小さなリズが頑張ろうとしているのに大人であり、司教である自分が使命感を失っては聖職者の名折れだと思ったのだろう。ヘイリーの表情から悲哀の色が消える。
 メライアも腕捲りをしてやる気に満ちあふれていた。
「まだ何も終わっていないのに諦めるなんて嫌ですもんね。私も引き続きみなさんの看病に励みます!」
 メライアは踵を返すと小走りで病室へと戻っていく。

 ヘイリーはリズを見ると微笑んで言った。
「ありがとうリズ。お陰で諦めない大切さを思い出しました。あなたの行動が重症の彼らにも勇気を与えることでしょう」
 リズは力強く頷くと氷を運んだ場所を教えてもらい、氷枕を作り始めた。