「司教どうされたのですか?」
 メライアが尋ねるものの、ヘイリーは浮かない顔をしたままで黙り込んでいる。
 やがて、意を決したように重たい口を開いた。
「全員があれほど重症だと解毒薬を作るにしても私の聖力も薬草の量も足りませんし効き目があるかどうか……。替え馬を使って教会本部から使者が来てくださるにしても、数日は掛かりますから、そうなると……」

 ――命の選別をしなくてはいけない。

 そう言って口を噤んだヘイリーの表情に暗い影が落ちる。自分の無力さに憤っているのか薬草の束を持つ手は小刻みに震えていた。
 メライアもリズも彼の話を聞いて無力さを感じていた。
(全員を助けられないなんて……)
 今回は薬草の量に対して患者の数、そして重症者が多すぎた。
 確実な解毒を行うには人数を絞り、解毒薬を飲ませることが必要になる。かといってみんなに行き渡らせることを優先すれば、解毒が中途半端に行われるだけ。

 聖力の込められていない解毒薬では毒の進行を遅らせるだけだが、聖力が込められた解毒薬は毒を消すことができる。ところが重症者の場合は体内の毒を消すことに加え、最終的には体内に溜まった邪気を浄化しなくてはいけない。それには充分な聖力の持ち主が必要になる。
 一先ず、薬を中途半端に飲ませていいのだろうか。解毒薬は効き目が薄いと却って苦しみが増すだけだ。かといってそのまま放置しておけば命の危険に晒される。
 ヘイリーが命の選別をしなくてはいけないと言っていた意味がひしひしと伝わってくる。
 リズは悔しくて唇を噛みしめた。