「えへへ。それは分かりやすい場所に置いてくれているからですよ。司教様が日頃整理整頓を怠らずに行ってくれているお陰です」
 リズは椅子からぴょんと飛び降りると手を後ろ手に組んで覗き込むようにして尋ねる。
「さあ司教様、必要なものはあとどれですか?」
 ヘイリーは「ええっと」と呟きながら側頭部に手をやって室内を見回した。
「必要なものはこれですべてです。手伝ってくれてありがとうございます。リズも持って行くものがあるのならこの鞄に詰めてください。私は先に馬小屋にいます」
 リズは布製の鞄を受け取ると厨房に行って必要な荷物を纏めた。
 準備が完了して馬小屋に行くとヘイリーとケイルズが荷馬車に荷物を載せていた。

「清潔なタオルとシーツ、あと、地下の氷室に保存していた氷も用意しました」
 ケイルズは荷物を積み終えると備品の最終確認をしてヘイリーに話し掛ける。
「漏れはなさそうです。司教が要塞へ行かれる以上、留守番は僕がします。気をつけて行ってきてください」
「抜かりない準備をありがとうございます。私がいない間、教会のことは頼みましたよ」
 二人の会話を聞いていると、普段から有事の際の分担が決まっているようだった。ヘイリーとメライアが現地へ赴き、ケイルズが教会で留守番をする。聖職者は三人だけだがうまく連携が取れているように思う。
 リズはヘイリーに抱き上げられると、御者台に乗せられた。手綱を握るヘイリーは隣に腰掛けると、かけ声と共に馬を走らせ始めた。