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 廊下を慌ただしく駆けていく音が聞こえてリズは目を覚ました。今日は朝から騒がしい。

 目を擦りながら起き上がるとうーんと大きく伸びをする。まだまだ微睡む意識の中、ベッドから這い出して窓を開け、鎧戸の扉を開く。
 今日も晴天で清々しい朝だ。なのに、何故か変な胸騒ぎがするのは何故だろう。

 胸元に手を当てて首を傾げていると青と緑、赤の三つの球体が森の方から飛んで来る。
『おはようなの、リズ』
『浮かない顔をしているけどどうしたのー?』
『何か心配事でもあるなら話してみてよ』
「おはようございます。なんだが変な胸騒ぎがするのです。部屋の外が慌ただしいですし……何かあったのでしょうか」

 この胸騒ぎがただの杞憂であって欲しい。しかし、いつだってこの胸騒ぎはリズの期待を裏切る。
 父が事故に遭ったという知らせを聞いた時も、聖杯を壊した罪を着せられた時も。それらが起きる前には必ず心臓がドクドクと妙に早く脈打つのだ。
 そして、今回もその予感が的中してしまった。