「――やあ、クロウ。その後容態はどうだい?」
 何とも気の抜けた声で話しかけられるが、相手は他でもない国王のウィリアムだった。早朝とはいえ、今は外にいるのでクロウは木の陰に隠れて周囲を確認しながら答える。
「ヘイリー司教が加護石をくださったお陰で今のところ廃人にはなっていません。教会敷地内であれば自由に動けます」
「流石、元大司教のヘイリーだ。私の命を助けるために彼は自身が保有する聖力のほとんどをなくしてしまった。惜しい人材を失ったと未だに後悔している」
 先程までの声色とは打って違ってもの悲しい色が帯びている。


 ヘイリーが聖力のほとんどをなくしてしまった理由は、七年前に開催された狩猟大会でウィリアムが魔物に襲われてしまったからだ。
 噛みつかれた場所が悪かったウィリアムは瞬く間に瀕死の状況に陥ってしまった。
 本来、聖力は使っても休んでいればまた使うことができるようになる。聖力を持つ人間はそれぞれ聖力の保有量が決まっていて、それを使い切ってしまうと二度ともとの量に戻ることはない。

 よって一気に放出して聖力を失わないよう、身体は聖力の保有量に見合った量を小出しにするよう自然と調整してくれている。
 しかし、ヘイリーはウィリアムの命を救うために体内に保有していた聖力を一気に解放し、ほとんど使い果たしてしまった。これによりヘイリーは以前のような力を持つことはできなくなり、自ら大司教の席を明け渡して辺境地のスピナへと引っ込んでしまった。