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 クロウは早朝から離れ棟の外で鍛練を行っていた。
 一汗かいたところで一旦休憩に入り、近くの水場で顔を洗う。水が滴る前髪を掻き上げながらタオルで顔を拭き、肩に掛けて空を見上げた。
 朝日が山肌から顔を出し、青々とした山の木々を照らしている。遠くにある堅牢な要塞の白い壁は暁色に染まり、普段とは違う顔を見せていた。この時間帯だとそろそろ聖職者たちが起きて活動を始める頃だろう。

 ふと、三日前のリズの表情が頭を過る。口端についたビーツのマッシュポテトを取ってそれを食べると、顔を真っ赤にして涙目になっていた。その姿はとても愛らしく、守ってあげたいという庇護欲をかき立てる。


 彼女は子供扱いされるのが嫌いなようだ。まだ十歳にも満たない女の子。子供扱いしないで欲しいと言われても、不思議とませている感じはしない。

 日頃の彼女の大人びた態度や雰囲気からして確かに子供扱いするのは良くなかったと少しだけ反省した。
(リズはその辺の同じ年の子供とは違う。だからこそ、子供扱いするのはあまり良くないかもしれないな)

 気を取り直して次の鍛練に入るべく、タオルを木の枝に掛けているとピアスが振動し始めた。
 クロウは留め具に触れた。