「聖杯は今朝から密かに邸の保管室で預かっていたの。昼間確認した時はなんともなかった。保管室は鍵が掛けられるから修道女たちには開けられない。だけどリズベット、あなたには万が一に備えて鍵のスペアを渡していたでしょう? 保管室の扉にこれが刺さったまま、開いていたのよ」

 ドロテアはポケットから鍵を差し出した。スペアの鍵には数字の二という文字が彫られていて、それは数カ月前にリズがドロテアから渡された鍵で間違いなかった。

 鍵は見つからないよう常にベッドの裏に隠していた。
 誰にも教えていないのに犯人はどうやって隠し場所を突き止めたのだろうか。

「待ってください。その鍵は確かに叔母様から預かっていた鍵ですが、私は保管室を開けてはいません。アリバイだってあります。今まで薬工房にいて、その前は薬草園で薬草を摘みに出かけていました。その前だって炊事場で食材管理をしていました」
「……それらを証言できる者はいるのか?」

 付き人の聖騎士が腕を組んで胡乱げに尋ねてくるので、リズは力強く頷いた。
「もちろんいます。薬工房の修道女と一緒にいましたから。その前だって……」
 しかしそこでリズはあっと声を上げて口を噤んだ。

 薬工房の修道女と薬草園へ薬草摘みに出かけた。
 しかし、ドレスを直し終えて花を生けに来た修道女と挨拶を交わしてから、炊事場で食材管理をしている間は一人だった。

 その間、誰にも会っていない。