厳かな空気が漂う聖アスティカル教会本部の一室。
そこに、両手を前に揃えて鉄の手枷を嵌められ、簡素な麻のワンピースに身を包む少女が騎士に連れられて入ってきた。

 少女の視線の先には壇上があり、七人の聖職者が一列に並んでいる。中央には大司教、その両脇には三人ずつ司教が立ち、どの聖職者も普段信者に向ける温厚な表情とは打って変わって、唾棄すべき存在として少女を見下ろしている。

 大司教は丸められていた羊皮紙を広げると冷淡な声で内容を読み上げた。
「評議会で検討した結果、聖杯を壊したリズベット・レーベは、妖精界への追放を命ずる!」
「……っ!!」

 評決を聞いて肩を揺らす少女――リズベットことリズは言葉を詰まらせた。
(妖精界への追放? そんなの冗談じゃありません)


 妖精界は人間の肉体では行くことのできない別世界。そこへの追放ということはすなわち、死を意味する。
 顔を真っ青にするリズは震える唇からなんとか声を絞り出した。
「……何度もお伝えしていますが、私は聖杯を壊してなんていません。無実です」

 すると司教たちが「この期に及んで白々しい」「往生際が悪いにも程がある」「いい加減、罪を認めよ」「おまえが犯人であることは証明されている」などと口々に非難する。

 大司教は周囲を見回してからやめるよう手で制すと、リズへと視線を戻した。