そもそも、きっかけは金井家の両親が町内会のクジ引きで1週間のフランス旅行を当てた事だった。


その旅行は夏休み中で、参加出来る人数はたった2人だけ。


金井家の両親は迷わず自分達だけで旅行に行く事を選び、ついでだからとイギリスやスペイン等の隣国にも観光に行くプランを立ててしまった。


よって、彼らは夏休み中の1週間だけ家を空けるはずが、いつの間にか夏休み全てを海外で過ごす事になってしまったのである。


そこで浮上した問題は、留守中に誰が家の家事を行うか、という事。


金井家には成人済みの颯さんや千晶さんが居るものの、料理や洗濯をきちんとこなせるかと言われるとそうでもない。


よって、比較的金井家の近くに住んでいて家事全般を得意とし、加えて三男の朝樹の幼馴染みである私が、彼らと期間限定の同居生活を送りながら家事をするという大役を仰せつかったのである。


もちろん、学年が変わってからすぐに朝樹と付き合い始めた私は、毎日彼と一緒に過ごせる事が嬉しくて二つ返事でOKを出した。



元々、金井家の家に遊びに行く度に、颯さんと千晶さんから執拗なまでに構ってアピールと胸キュンな言葉を浴びせられ続けていた事を完全に忘れて。



夏休み初日に金井家を訪れた私は、案の定彼らから愛の言葉をこれでもかと聞かされる羽目になった。


私の彼氏は朝樹です、と正直に言えればいいものの、この環境下でそれを言ってしまえば彼らが嫉妬に狂うのは目に見えている。