君の甘さには敵わない。

今夜、皆が寝静まった後に朝樹の部屋に行けたら良いけれど、多分グチグチと小言を言われ続けるんだろうな。


(まあ仕方ないよね、私達の関係は秘密にしてあるんだし)


それに、夏休みが終われば朝樹とずっと2人きりになれるし、今も夜は彼と一緒に居れるから悲しいなんて事は無いのだ。


んー、と、再度大きく伸びをした私が自室のドアノブに手を掛けた、次の瞬間。



「捕獲成功」



不意打ちのテノールが耳元で聞こえたかと思うと、私は誰かに手で目を覆われ、


「え?ちょっと!?」


そのまま、半分引き摺られるように私の部屋とは反対方向に連行された。



「ちょっと誰、瑛人!?いくらなんでもこんな力技使わなくたっていいじゃん!」


そのまま何処かの部屋のドアが開いた音がして、私はそこに勢い良く押し込まれた。


「ねえ、いつからこんなに力強くなったの!?前まで腕相撲でも私に負けて、」


先程の悪ふざけを注意してもまだ懲りないなんて、と半ば怒り気味に声を荒らげた私は、ある事に気がついて息を飲んだ。


…違う、この人は瑛人じゃない。


だって、今までの瑛人は女子には絶対に手荒な真似はしてこなかったし、何より、


「清涼、そこで突っ立ってんなら手伝ってよ!…え、寝る?七瀬ちゃんとの2人きりの時間奪ったくせに、寝かせるわけないだろ馬鹿!」


と、遠くでかなりの大声で喚く瑛人の声が、今私の近くに居るのが他の人だという事を証明していて。