君の甘さには敵わない。

果たして、誰がこんな奴と結婚するだなんて口からでまかせを言ったのか。


私の身体を支える颯さんの手を半強制的に引き剥がした瑛人は、私の手を取って立ち上がらせた。


「次七瀬ちゃんに手出したら罰として追放するよ」


「何言ってんだお前、此処は俺の家だぞ」


「黙りなさい、余計な口答えは許しません!」


「ちょっと瑛人!」


全く、どこをどうしたら自分よりも何歳も歳上の先輩にこんな上から目線の口が利けるのか理解出来ない。


そして、顔を青くする私を他所にプクリと頬を膨らませた彼は、颯さんを睨んだまま私の耳元で囁いた。



「ねえねえ、この人に朝樹と七瀬ちゃんが付き合ってる事言ったらやばいかな?」



(や、やばいって…)


その衝撃的な一言に、私は思わず目をひんむいた。


怪訝そうな顔をした颯さんの顔が見えるけれど、今はそれどころではない。


そんなの勿論やばいに決まっているではないか、これがばれたらこの家で何とか保ち続けた秩序が崩れ落ちてしまう。


ああ、全ての真実を知った上でこの状況を楽しんでいる瑛人は予想以上に小悪魔だ。


(最低!)


「っ、当たり前じゃん馬鹿!」


気が付くと、私は瑛人を勢い良く突き飛ばしていた。