君の甘さには敵わない。

そして、筆を優しく私の頬に滑らせる彼の目はいつもみたいに優しくて、

 


「僕だって、1人の男だからね?」




でも、それはやっぱり男の中の男、“狼”の目だった。



(っ…!)
 
 
私の頬を一瞬で赤く染めるその言葉は、何重にも響いて脳内にこだまする。


「あ、チーク必要なかったかな」


超絶至近距離で私の顔を覗き込んだ彼は、いたずらっ子のように笑って。



私の額に、温かなキスを落とした。











その後、千晶さんにお礼を言った私は食器を片付ける為にリビングへ向かった。


今日も今日とてキスマークを付けられ、額にキスをされ、眼福というか幸せというかなんと言うか…。


…いやいや、こんな事を考えていたら後で朝樹に恨まれてしまう。


(駄目だ駄目だ、他の事を考えなきゃ!)


パシン、と軽く頬を叩いた私は、窓から差し込む夕日に目を細めた。



いつの間にか外は夕焼けで赤く染まっていて、そろそろ夕飯の支度をしないといけない時間が近付いている。


(面倒だし、今日はカレーにでもするかな…)


男子は皆食べ盛りだから多めに作らないと、なんて事を考えつつ、リビングに通ずるドアを開けると。


「あ、颯さん」


私を見送った直後からずっとそこに居たのか、ソファーに寝転んで昼寝をしている颯さんの姿を発見した。