君の甘さには敵わない。

颯さんは漢のような格好良さを持っていたけれど、それは千晶さんの持つものとはまるで違う。


(…いやいや何考えてるの、私には朝樹がいるのに!)


いくら彼らが私と朝樹の関係を知らないとはいえ、ここまで彼らに言い寄られると流石に…、


胸がときめいて止まらない。




と、その時。


「…何これ、キスマ?ナナちゃん、これ颯に付けられたの?」


千晶さんの感情の籠らない地声が、私の鼓膜を震わせた。


「え、」


そのあまりの声の低さに一瞬誰の声か分からなくなってそっと目を開けると、何とも言えない表情で私の首元を見つめる千晶さんの顔が目に入った。


「あの、それ、勝手にされて…」


「…ムカつく。これ消すから」


私に最後まで台詞を言う事すら許さず、少し怒り気味に眉間に皺を寄せた彼は、迷う事なくキスマークの上にコンシーラーを乗せた。


「全く、颯もやり過ぎだよ。こんなかわいこちゃんに傷を付けるなんて」


「はい、…」


グチグチと文句を言いながらも痕を消し、続いて筆を手に取った彼は、中途半端に手を宙に浮かせたまま大きな溜め息を吐いた。



「…ナナちゃんが僕の事どう思ってるか分かんないけど」


何も持っていない方の手でキスマークの痕に触れた千晶さんの声は小さくて、颯さんをライバル視している事は一目瞭然。