楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、解散することになった。

いくつかのグループに分かれて里子は今回の幹事的な立場になったので、二次会に行った。
私は、どこかで時間を潰してから帰ろうとした時に凌太に声をかけられた。

「瞳、少し話をしたい。どうやら、二人の間になにか誤解があるかもしれない」

余りの神妙な表情に頷くしかない。

ただ、気掛かりなのは顔色が余り良く無いことだった。

「ねぇ、体調が悪いんじゃないの?」

「確かに、最近は忙しくて睡眠があまり取れていない」

「だったら、話はまた今度にしたら?」

そう言うと、凌太は私の手を握る。
何事かと思ったら。
「今、話をしないと次がないかもしれないから。あの時みたいに、突然俺の前からいなくなるかもしれない」

それはきっと凌太が留学していた時のことだろう。

「でも、変に倒れられたら店に迷惑でしょ」

「なら、俺の部屋に来ればいい」

「何を言ってるの!家格の合う婚約者がいるんじゃないの」

「さっきから、家格のあう嫁だと婚約者って何?」

「それは」話をしようとした時に凌太はさっさとタクシーを止めて、私を先に座席に誘導し自身が乗り込むとドライバーに住所を告げていた。

流石に、さっきの話の続きをするのは憚られたので、ただ黙って座っていた。

車内は右折専用レーンがありますとか一時停止ですとかカーナビの独り言だけが響く。

そんな重苦しい時間はドライバーの「お客さんここでいいですか?」の言葉で終了した。

タクシーを降りた場所には聳え立つマンションがあった。


そしてエレベーターは20階に向かっている。
確かに、住む世界が違ったことはよく分かった。

生活感のないリビングは大型のテレビが壁にかけられその前にはソファベッドが一つとその両サイドにサイドテーブルが置かれている。
カーテンが引かれている窓のところにはベンジャミンの木が置かれていた。

確かに結婚しているようには見えない。

離婚したんだろうか?

「適当に座って」

そう言われてソファベッドの端に座っているとサイドテーブルに500mlのミネラルウォーターのペットボトルを一本置き、もう一本持ってソファベットの反対側の端に座った。

「悪い、酒と水しかなくて、ビールが良ければそっちにするけど」

「水で結構です」と言ってペットボトルのキャップを開けた。


凌太はペットボトルの水を一口飲むと「確認したい」と私の目を見て言った。