幸枝は思いがけない打診に喉の前のほうから変な音が出た。
 「良いのよ、父との二人暮らしだし、(たま)にはお客さんがいらっしゃったほうが賑やかになるわ。貴女のお気に召すような家ではないかもしれないけれど……如何かしら」
 (ご厚意は断れないわね……)
 「もしよろしいのでしたら……一晩御厄介になります」
 女性はパッと手を合わせて喜んだ。
 「まあ、嬉しいわ。早速父にお伝えしてきますわね」
 (あの院長と彼女は親子……にしてはあまりにも歳が離れているのでは?……いや、こんなことを考えるのは野暮ね)
 幸枝は少々この家族に疑念を持ったが、我が家も言えたものではない。
 我が家には我が家の事情があるように、他所にも他所の事情がある。
 診療時間は終わったらしいが、当直の看護婦が居るのか奥の方からは物音がしている。
 (もうすぐ荷物が届く頃かしら……)
 壁に掛かった時計が、午後六時を告げた。