堂々と銀座の街を闊歩する津田であったが、その隣を歩く幸枝はすれ違う人から自分達へ向けられる目に気が付いた。
 「あの……なんだか私たち、注目されているように思えるのですが」
 モガ達の行き交う流行の最先端の街でも、二人の姿は一際目立っている。
 「……軍服では余計に目立つのではありませんか」
 「この方が都合が良いのだよ。例えばこれを着ていることで厄介な連中を避けられる」
 (実際上官からは服装を変えても良いと言われたが……この方が警官なんかも口出しできず、簡単に権力を行使できるからな、目立つのは致し方ない)
 幸枝は次々に向けられる目線に不安を抱き始めているが、津田は幸枝の前にまわり足を止めた。
 「これも仕事だ……伊坂さんも同じだろう。私は帝国海軍の軍人。仕事である以上仕事着を着るのは当然だ」
 「はあ」
 津田はやや上を見て軒先の看板を確認した。
 「このお店に入りましょう」
 幸枝をエスコートした津田は早速店内の物色を始める。
 木製の戸棚や箪笥からランプ、陶器などの調度品が並ぶ店は、古めかしさと高級感を混ぜたような雰囲気を醸し出している。
 「いらっしゃいませ……」
 来客を知らせる鈴の音を聞いた店主であろう老婦が奥から出てきたが、客を見るや否や彼女の表情は硬くなった。
 客が来たと思い店頭に出てみると、そこにいたのは海軍将校である。
 「……何か御用でしょうか」
 南方での戦争が始まって数週間、老婦は軍人に何かを取り立てられたり、仕事に支障が出たりするのではないかと怯えているのだ。
 老婦の目からそれを察した津田は、優しい表情で彼女に声を掛ける。