三羽雀

 (ああ、これは面倒な種類の人間ね)
 幸枝には男がどの科に所属しているか分からなかったが、融通の効かない役所の職員のような印象を持った。
 (そもそも、いくら内密だとしても一緒にお仕事をするんだもの、自己紹介くらいしたって良い筈よ)
 「……これから共同でお仕事をするのですから、一度お互いに自己紹介をしませんか」
 「不要だ」
 男は幸枝の提案をバッサリと切り捨てた。
 「は?」
 「不要だと言っている」
 幸枝は思わぬ返答に思考が停止しているが、相手は構わず話を続ける。
 「君の仕事はこうだ。此方(こちら)よりおおよそ二週間から一週間に一度、この封筒を手渡す」
 幸枝の前に差し出された封筒は、何の変哲もない茶封筒である。
 「この中に注文票と次回の日時、場所を指定した紙を入れてある。注文票を代表に手渡すのが君の役目だ。使用後は封筒も紙も全て焼却すること。それから本件については口頭以外の連絡は全て禁止する」
 一時頭が回らなかった幸枝だったが、次々に流れてくる重要事項にハッとして慌てて鉛筆と筆記帳を机に出す。
 「今のお話を書きつけても?」
 「構わない」
 筆記帳の適当な(ページ)を開いた幸枝は、改めて確かめるように書き出す。
 「封筒には注文票と次回の指定をした用紙、注文票をお父様に渡す、封筒と中身は焼却。それから……」
 「口頭以外の連絡は全て禁止」
 「口頭以外の連絡は全て禁止……全て禁止ですって?」
 内容を書き終えたところで、幸枝はまたしてもハッとする。
 「例外として書面の手渡は許可しよう」
 「いえ、そうではなくて……」
 「何が気に入らない?」
 男は何食わぬ顔である。