昭二は手遊びに夢中で母の声が聞こえていないようであったが、二人の女中は殺気立った視線を確かに感じていた。
妻は父に手を引かれるまま隣へ移動する。
「そう興奮しないでくれたまえ」
「……」
椅子に腰掛けた妻は息を荒くしている。
「お前は昭二に付きっきりだな」
「……私の大切な息子ですもの、当然でしょう」
「それは理解している。ただ今のお前は昭二の母であるだけでなく、私の子供達、義雄と幸枝の継母でもある。そして伊坂家の妻でもある……分かっているな」
妻は何も言わず、俯いている。
「私に二人の子供がいること、そして私の地位を承知の上でこの家に入ったのだろう。そうであるならばお前には昭二だけでなく義雄と幸枝の母としての、伊坂工業の夫人としての義務を果たしてもらわねばならない。特に幸枝はこれから母の存在が必要になる時期で……」
「私は昭二の母親です!」
金切り声を上げた妻は、そう言い放って部屋を出て行った。
「奥様!」
隣の部屋からドタドタと激しい音と末子の泣き声が聞こえたが、それが段々と遠ざかっていく。
居間に戻ると案の定床にはおもちゃが多方に転がり、女中らの身なりも少々乱れている。
「すまなかった……怪我はないか」
「私どもは何とも御座いませんが……申し訳ございません」
女中は揃ってその場で頭を下げる。
「いいや、君たちの所為ではない。寧ろ謝るのは私だ……それで千代子は」
「はあ……行先は存じ上げませんが、御坊ちゃまも連れて行かれました」
「そうか」
妻は父に手を引かれるまま隣へ移動する。
「そう興奮しないでくれたまえ」
「……」
椅子に腰掛けた妻は息を荒くしている。
「お前は昭二に付きっきりだな」
「……私の大切な息子ですもの、当然でしょう」
「それは理解している。ただ今のお前は昭二の母であるだけでなく、私の子供達、義雄と幸枝の継母でもある。そして伊坂家の妻でもある……分かっているな」
妻は何も言わず、俯いている。
「私に二人の子供がいること、そして私の地位を承知の上でこの家に入ったのだろう。そうであるならばお前には昭二だけでなく義雄と幸枝の母としての、伊坂工業の夫人としての義務を果たしてもらわねばならない。特に幸枝はこれから母の存在が必要になる時期で……」
「私は昭二の母親です!」
金切り声を上げた妻は、そう言い放って部屋を出て行った。
「奥様!」
隣の部屋からドタドタと激しい音と末子の泣き声が聞こえたが、それが段々と遠ざかっていく。
居間に戻ると案の定床にはおもちゃが多方に転がり、女中らの身なりも少々乱れている。
「すまなかった……怪我はないか」
「私どもは何とも御座いませんが……申し訳ございません」
女中は揃ってその場で頭を下げる。
「いいや、君たちの所為ではない。寧ろ謝るのは私だ……それで千代子は」
「はあ……行先は存じ上げませんが、御坊ちゃまも連れて行かれました」
「そうか」



