「貴女はこの界隈ではかなり有名な方のようですね、役者でもないのに」
「ええ、そうね」
清士もまた風刺の効いた口調で話し始めた。
一方の幸枝は彼がどうして自分の居場所を突き止めたのかを知るべく返答する。
「良家の学生さんでも、こんなところで時間を潰す暇があるのね」
「僕は映画や演劇を観に来たわけではありませんよ」
「それでは、一体何のために?」
喫茶店の前に着いた二人は歩みを止める。
そして清士は扉の取手に手を掛け、
「伊坂さん、貴女のためです」
と彼女をエスコートした。
カランカランとドアの鈴が鳴ると同時に、コーヒーの香りが漂ってくる。
給仕係の案内した席は店の一番奥の席で、昨日よりも人の少ない店内は些か広く見える。
「コーヒー……伊坂さんは?」
「私もコーヒーで」
つい十数時間前に見た景色に、二人は複雑な感情を持つ。
二人の間には、またしても沈黙が居座っていた。
「どうぞ」
給仕係がコーヒーを差し出す。
「……それで、私のため、とは一体どういうことかしら」
清士は目前の少女の目の鋭さに気兼ねしたが、一息ついて話し始めた。
「昨日の件について謝罪したい」
コーヒーカップを持ちかけていた幸枝は、手を膝の上に戻す。
「まず、僕は貴女の仰る通り成田実業の長男だ」
「ええ」
幸枝は思った通りだと内心笑みを浮かべている。
「ええ、そうね」
清士もまた風刺の効いた口調で話し始めた。
一方の幸枝は彼がどうして自分の居場所を突き止めたのかを知るべく返答する。
「良家の学生さんでも、こんなところで時間を潰す暇があるのね」
「僕は映画や演劇を観に来たわけではありませんよ」
「それでは、一体何のために?」
喫茶店の前に着いた二人は歩みを止める。
そして清士は扉の取手に手を掛け、
「伊坂さん、貴女のためです」
と彼女をエスコートした。
カランカランとドアの鈴が鳴ると同時に、コーヒーの香りが漂ってくる。
給仕係の案内した席は店の一番奥の席で、昨日よりも人の少ない店内は些か広く見える。
「コーヒー……伊坂さんは?」
「私もコーヒーで」
つい十数時間前に見た景色に、二人は複雑な感情を持つ。
二人の間には、またしても沈黙が居座っていた。
「どうぞ」
給仕係がコーヒーを差し出す。
「……それで、私のため、とは一体どういうことかしら」
清士は目前の少女の目の鋭さに気兼ねしたが、一息ついて話し始めた。
「昨日の件について謝罪したい」
コーヒーカップを持ちかけていた幸枝は、手を膝の上に戻す。
「まず、僕は貴女の仰る通り成田実業の長男だ」
「ええ」
幸枝は思った通りだと内心笑みを浮かべている。



