自分と関わる人は自分で選び、親の力には頼らないと考えて勉学一筋でやってきた結果が裏目に出た。
 目の前の少女は黙ってコーヒーを飲んでいるが、初対面の可憐さは影もなくただ殺気のようなものが滲み出ているばかりである。
 「あらいけない、もうこんな時間だわ。お先に失礼するわね」
 最後の一口をあおった少女は左手首に着けた腕時計の時計板をわざとらしく見て、去っていった。
 夜が深まろうとしていてもなお収まることを知らない喧騒の中に、清士だけがただ一人取り残されている。
 喫茶店を出た幸枝は、もと来た道を颯爽と通り過ぎて真っ直ぐに繁華街を抜けていく。
 辺りに目をやると、肩を組みながら歌い練り歩くサラリーマンたちの集団があったり、大きな声で客を集める舞台役者がいたりする。
 少女の足取りは徐々に早くなっていき、足音が大きく、また彼女の側で起きる風が断髪の裾を揺らす。
 すっかり暗くなった夜空を見上げて一息吐くと、数分前に見たあの学生の表情が鮮明に目に映る。
 「何よ、(ろく)に話しもしないで黙りこくって。同族嫌悪もいいところよ」
 (それとも……本当に私のことを知らないのかしら)
 幸枝は華やかな浅草の街の中で再び歩みを進めた。