「いやあ、すっかり御馳走になってしまって」
 「有難うございました」
 洋食を(たしな)んだ学生達は、店を出ると少女に一礼した。
 「いいえ、御礼を申し上げるのは私のほうです……皆さん、この後はいかがなさるの?」
 三人の学生のうち腕時計を見た眼鏡の学生は、
 「そうだな……俺は帰るよ。明日も早いだろ」
 と言い、もう一人もその眼鏡の学生について行くような振舞いをしている。
 「成田、お前は?」
 二人の学生と少女の間に立った学生は少し迷う様子を見せた。
 「……僕は、もう少し此処に居るよ」
 「そうか、気を付けて戻れよ」
 「ああ」
 そう言って二人の学生は雑踏の中へ消えた。
 洋食屋の前に学生と少女が一人。
 「あの、成田さん」
 学生は少女の声に振り返る。
 「これからまた何処かへ向かわれるのですか」
 「……少し歩きませんか」
 少女は言われるままに学生の後を追った。
 学生は(しばら)く何も言わずに歩き続けていたが、口を開いたのは彼である。
 「そういえば、名前を訊いていませんでしたね」
 少女はただあても分からず歩き続けてぼうっとしていたが、彼の一声でハッとする。
 「私は……伊坂幸枝(いさかゆきえ)と申します。貴方は?」
 「僕は成田清士(なりたきよし)といいます、ご覧の通りの学生です」
 二人はそれだけ交わして、また静かに歩いていた。
 辺りも人が減ってきて喧騒が遠くなる。
 「ねえ成田さん、何処へ向かっていらっしゃって?」
 「はあ」