「此処で良いかしら」
 四人の着いた先は浅草で一、二を争うほどの人気の洋食屋である。
 「何を食べようか」
 四人掛けの席で向かい合わせに座った二人の学生は、壁に掲げられた料理の名前を見ながら、今晩の食事を思案する。
 (……寡黙な方なのかしら。隣の二人とはまるで違うわね)
 少女は黙って座ってばかりいる学生に声を掛けた。
 「確か……成田さん、よね。召し上がるものはお決まりで?」
 ぼうっとして遠くを見つめていたその学生は、少女の声にハッとして目を合わせた。
 「ああ、そうですね……僕はビーフシチューをいただきます」
 少女はニコッと笑うと、他の二人の注文も聴いた。
 「お二人は?」
 「俺はカツカレーにします。それで、こいつはマカロニグラタンで」
 全員の注文を聞いた少女は、丁度席の近くを通った給仕係を呼び止める。
 「注文良いかしら」
 「はあ」
 「えーとカツカレーと、マカロニグラタン。それからビーフシチューライスをふたついただくわ」
 「かしこまりました」
 給仕係が去った後、少女は不敵な笑みを浮かべて目前の学生に話しかけた。
 「私もビーフシチューをいただくことにしたわ、成田さんと同じね」
 (動揺しているわね……!)
 彼もまた、目の前の女が浮かべた笑みに引き込まれるような気がしていた。
 否、洋食屋に向かっているときからのことである。
 すらりとした身体に、真っ直ぐに切り揃えた断髪。そして不思議な笑みの浮かぶ目。
 彼は動揺せずにはいられなかった。