「はあ、僕は神藤勝俊(しんどうかつとし)という者です。水曜日と金曜日の夕方は毎週ここで練習していますから、是非また聴きにいらして下さい」
 友人は嬉々として続ける。
 「ええ、きっとまた来ますわ」
 その後友人は彼女の名前と春子の名前を勝俊に告げ、公園を後にした。
 「私の名前まで紹介しなくてよかったのに」
 「いいじゃあないの。神藤さん、とても丁寧で人柄の良さそうなかたよ」
 家の近くの角に着いたところで、二人は別々の方向へ進んでいった。
 その日から、春子は友人と毎週水曜日に公園に通い勝俊の奏でるホルンを聴くようになった。初めは渋々友人に連れられていたのだが、勝俊が毎週誘ってくるので断れず成り行きで毎週のように公園を訪ねるのであった。
 「松原さん、こんどの金曜日、今日と同じ時間にまた此処(ここ)に来て下さいませんか」
 「ロマンス」を聴き終えて友人と帰っていたところに、後を追ってきたのか、勝俊が春子のもとにやってきた。
 「私ですか?」
 「そうです、松原さんに是非聴いていただきたい曲があるんです」
 春子は友人と顔を見合わせた。
 (どうして私だけ呼ばれるのだろう……私よりこの子のほうがあの人のことを好きなはずなのに。行ってもいいのかなあ)
 友人は春子の考えていることを察したのか、
 「春子さん、せっかく神藤さんがお誘いして下すっているんだし、行ったらいいわよ」
 と春子の肩に軽く手を乗せる。
 「そう?じゃあ……金曜日ですね。いつもの時間にお訪ねします」