(……!)
 顔を上げた少女の目前には、三人の学生が立っている。
 少女はそのうちの中央にいる学生に目を奪われていた。
 (まさか……いや、顔が似ているだけよね)
 少女の目の先にいる学生は、ハイヒールを履いてやっと人並みの身長になるほど背の低い彼女からすると、見上げる程度の高身長で、日の落ちた人混みの中でも分かるはっきりとした顔立ちが特徴的である。
 銀幕の二枚目と表現しても相違ないような、或いはまるで外国人の血でも引いているのかと思うような端正さだ。
 少女は暫くその学生に気を取られていたが、我に返ったように視線を落とす。
 一方、その学生も突如目の前に現れた小柄な女性を前に足が止まり、まじまじと見つめられたかと思うと今度は下を見るという不可解な行動を無視せずにはいられなかった。
 人々の足取りが流れていく中、少女は学生の手に持っているものを目にして目を大きく開けた。
 「あっ、そのがま口……」
 「先程拾ったんですがね、貴女の物でしたか」
 「見つけていただいて有難うございます、どう御礼をしたら良いか...」
 がま口を受け取った少女は、中に入っていた金銭を確かめながら思案する。
 「御礼なんてしていただかなくても」
 「いいえ、私の感謝の気持です……あっ、そうだ。御夕飯はもうおあがりになって?私にご馳走させてもらえるかしら」
 三人の学生のうち中央にいた学生は乗り気でない様子であったが、他の二人は早速、早めの夕食を提案した少女について行こうとしている。
 「成田も一緒に来いよ!」
 少女と二人の学生に置いていかれそうになったその人は、後を追うように早足で雑踏の中を抜けていった。