春子は清蔵に呼ばれ今の中央へ進み徳利を受け取る。
 「いやあ、嬉しいもんだねえ。今日はおおいに呑もう」
 「何か良いことでもあったのですか」
 清蔵は大きく頷いた。
 「ああ。遂に大学生らも戦地に()くことになってだな、清士と清義もいよいよ皇軍の兵隊になるのさ」
 続けて克太郎が話す。
 「それで、清士君の縁談を前倒しにするそうなんだよ。めでたいなあ!」
 「春子ちゃん、どうだい?」
 猪口を持った手で指された春子は驚いていたが、
 「はあ、私が清士兄さんと……?」
 と恥ずかしげな表情を見せる。
 「まあ、冗談だ。あいつが何を言うか分からないからな……どうも結婚に否定的なんだよ、あいつは」
 「まあまあ、今日はともかく呑もうじゃないか」
 そうして二人はまた宴を始めた。
 居間から出て襖を閉めた春子の頭の中には、幸枝の言葉が駆け巡っていた。
 『もう時間がないわよ。春子ちゃんがあなたの好きな人に告白したとして、相手の方も応えてくれればそれは良いことだし、もし上手くいかなかったらそれまでよ。春子ちゃんなら分かるわね。あなたにお付き合いを申し込んだ方にも、あなたの好きな人にも、残された時間は同じよ』