「それじゃあ、私達はこの辺で」
 「ええ、皆さん有難うございました。志津さんも、春子ちゃんも、有難う」
 盛夏の空の下偶然にも集合した三羽の雀たちは、またそれぞれの方向へと飛び立つのであった。
 幸枝はじりじりとした暑さの中、語らいながら歩きゆっくりと遠くなっていく四人──昔知り合った人たちとその旦那──の姿を見つめている。
 「良かったな、友達に会えて」
 清々しい表情で彼女と同じ方向を見つめるのは、かつての海軍士官である。
 「ええ、良かったわ。みんな元気で、相変わらず」
 タオルで汗を拭う彼の横顔は凛々しく、そんな彼を見つめる幸枝の表情もどこか夏空のようにすっきりとしている。
 「中でおにぎりが出てるけれど、幸枝さんも食べるかい」
 幸枝は昼食の時間がやってきたことを知って目を輝かせた。
 「ええ、いただくわ」
 颯爽(さっそう)と工房の中へ歩いていく幸枝は入口の三歩手前で立ち止まり、くるりと振り返った。
 「正博さんも、一緒に!」
 その笑顔は真夏の太陽の眩しさと同じくらいに、きらめいていた。