三羽雀

 敵軍の猛攻を受け後にも引けず前にも進めない状況に陥った南方の戦地では、病院が回らなくなるのではないかと恐れるほどの怪我人が運ばれてきた。
 本来は小児科医、多めに見ても内科医であるから初めは脚気(かっけ)だとかマラリアなんかの病人を診ていたのだが、いよいよ戦闘が激しくなると、
 「君も医者なのだから怪我人の一人や二人くらい診られんということは無いだろう」
 と軍医予備員に志願する前に誰かから言われたことと全く同じことを言われた。
 まず物資が足りないというのに、兵士は次々と運ばれてくる。
 身体の一部分が変な方向に曲がっているなどというものは最早かわいいもので、骨が見える、肉が(えぐ)れる、何かが刺さっているといった人の仕業かと疑いたくなるような外傷を負った者ばかりであった。
 後から話を聞くには衛生兵であっても自決を迫られた者が在ったというほどだから自分がまだ恵まれたほうであったことは確かであったが、治療部に配属された彼は衛生兵だけでは手が足りないと言われて師団総出で治療に駆り出され、涙ながらに兵士の処置を行い続けたのだ。
 常に怒号の飛び交う天幕(てんまく)の中で──天幕が設置出来れば良いが、それさえも出来ずにスコールに打たれながら吹き(さら)しの中治療にあたったこともあった──上官の指令に混ざるように断末魔に抗うような叫びや魔物が取り()いているのではないか思うほどの呻き声がどこからともなく湧き上がっていた。
空地(くうち)を前にした康弘の脳裏(のうり)には、軍医時代に見た野戦病院がありありと映し出されていた。
しかし、この空地は野戦病院よりも凄惨(せいさん)である。