別状無く回復に向かっているのが何より安堵(あんど)するものである。
 看護婦は再び病室に戻った。
 志津が今日の診療予定を確認していると、
 「志津さん、お電話をお借りしても良いかしら」
 伊坂の妹がやって来た。
 「はあ、どうぞ」
 退院の許可が出たのだろうと踏んだ志津は受付の奥の薬棚の前に立ち伊坂の兄に処方した薬の用意を始めた。
 結局本人に説明はしたものの、彼は薬を飲まなかったので、棚の中にしまっていたのであった。
 志津は用意した薬を手に受付に戻った。
 (そういえば昨日、妹に処方を説明してくれと頼まれたんだったわ)
 三種類の飲み薬を机上に置いた志津に対し、女は不思議な顔をしていた。
 「薬剤師のかたは?」
 「実は私が薬剤師なの。昔は事務員を雇っていたのだけれどね……事情があって今は私が受付と調剤を兼任しているのよ」
 志津の指す先には医師免許と薬剤師免許の証書が掲げてある。
 「あら、志津さんは薬剤師が本業なのね……志津さん、先に診療とお薬のお代を。お兄様を呼んでくるわ」
 女は代金を受付に置くと、そそくさと病室に戻っていく。
 (あら……まあ説明はできなかったけれど、本人にはしてあるから良いかしらね)
 代金を確認していると、自動車の滑り込んでくるような音がした。
 彼女が呼んだのであれば異常な早さに思われるが、あの女が急がせたのなら自動車も一瞬でやってくるのかもしれない。
 待合室はあっという間に伊坂の兄妹(きょうだい)と二人の看護婦、父でいっぱいになり、志津も受付から待合室に出た。
 「皆様、一晩有難うございました」