「良いのよ、父と二人暮らしだし、(たま)にはお客さんがいらっしゃったほうが賑やかになるわ。あなたのお気に召すような家ではないかもしれないけれど……如何かしら」
一瞬困ったような表情を見せたようにも見えた女は、
「もしよろしいのでしたら、一晩ご厄介になります」
と小さく頭を下げた。思惑通りである、「お気に召すか分からないけれど」という謙遜までもが計算づくだ。
「まあ、嬉しいわ。早速父にお伝えしてきますわね」
志津は診察室へ戻って少しだけ開けた扉の隙間から顔を出すと、
「伊坂の妹さん、今晩はうちにいらっしゃるって」
と嬉々として父に報告した。
「ああ、そうかい」
一方の父は書き物に専心しているらしく、軽い返事であった。