あの女は、どこか気取った感じがして良い感じがしない。兄のほうはただ頼り無いというか、良くも悪くも柔な感じに見えたが、一方の妹は男勝り、気取っていていかにも育ちの良い人間のように見えた。
 診察室から戻ってきたと見えた女は、すっと受付のほうへ歩いてきて、
 「お電話、拝借しても宜しいかしら」
 と窓の中を覗き込んできた。
 「どうぞ」
 志津がそう言うと、女は受話器を片手に電話を掛けている。本社にでも電話をしているのだろう。
 しなやかな身のこなしの女は、頭から爪先まできっちりと整えられているが、しおらしさよりも一つ芯の通ったような様相である。
 志津は電話をしている女の会話を聴いて、診察室の父の元へ向かう。
 机上に再び「離席中」の札を置いた。
 「お父さん」
 父はおそらく昼に運ばれてきた男性の診察簿を見ている。
 「ああ、志津か。どうした」
 「伊坂さんの妹さんは今晩この辺りにお泊まりになるようなのだけれど、うちにご招待したらどうかしら」
 おずおずと提案した娘を見た父は、困ったような表情を見せた。
 「志津や、相手は大企業の令嬢だよ。お金も物も、お前の想像も付かぬくらい、たんまりと持っているんだ。うちみたいな貧相な家に泊めては、かえって失礼になる」
 「でも……この辺りは住宅ばかりで宿は無いじゃありませんか。きっと妹さんもお兄さんの近くに居るほうが安心だわ」
 志津は父の話を間に受けずしてか、自らと女の身分の差に目を(つぶ)っているのかは分からないが、純粋に反論して見せる。