「はあ……会社の方にお電話を差し上げましたら、何方かが今日のうちにお見えになるとお返事を頂きましたが……」
 「ああ、そうですか。それは良かったです。きっと妹が来てくれるでしょう」
 昨日はきっちりと分けられ固めてあった髪はやや崩れて、無造作な見た目であるが、はっきりとした顔立ちとの対比で、それがかえって格好良く見えてくる。
 (そんなことを考えている場合じゃあないわよ、早くお薬を渡さないと)
 微睡(まどろ)むような心地の内心を(とが)めた志津は、
 「先生からお薬が出ておりますが」
 と膝の上に置いていた処方薬を差し出した。
 「朝昼晩、食後に1回のお薬と、朝晩、食後に1回のお薬で、此方は……」
 男性は真剣な表情で志津の説明を聴いていたようだが、説明が終わると、
 「三つもあったら、飲むのを忘れてしまいそうですね」
 と(とぼ)けた様子で、やはり笑っている。
 「うちの者が来たら、それにも今のを伝えてやってください。どうも僕はうっかりした節がありましてね」
 「はあ」
 奇妙な注文である。どこか間の抜けたような振る舞いは何かを隠してのことなのであろうか、それとも日頃からこの調子なのであろうか。
 「さて、もうひとつ休むとしましょうかね。こんなに寝ていられることも滅多に無いからね」
 カラカラと笑った男性は再びベッドに寝そべるのであった。
 受付に戻った志津は、帳簿を見ながら収支の計算をすることにした。