街路樹の葉に赤や黄の彩が差し始める頃、幸枝と長津は(けやき)の並ぶ表参道を歩いていた。
 「こんな風にお会いするだなんて、偶然ですね」
 本来は神宮外苑のとある庭園が指定されていたのだが、二人は丁度そこに向かう途中で出会った。
 幸枝は秋めく木々を眺めながら軽やかな足取りで歩いている。
 「先日は話を聞くことが出来ず、すみません」
 長津は秋の寂しさも凌ぐような暗い声でそう言った。
 一方の幸枝は、その声から長津の心情を察し、あえて明るく振る舞って見せる。
 「いえ!長津さんは何時でも冷静に周りを見ていらっしゃるから……彼処(あそこ)でお話を続けていたら、長津さんの仰った通り何方かに聞かれていたかもしれませんし……そう暗いお顔をなさらないでください」
 「そうですか、ご理解いただけるなら良かった」
 「もう一緒に『お仕事』をして一年ですよ、長津さんがどんなに頑張ってくだすっているのかは私も分かっているつもりです」
 木枯らしが二人の間を吹き抜けていく。
 「あ、あの、前回の手拭いですが……」
 幸枝は鞄の中から小さく畳まれた手拭いを引っ張り出した。譲渡するつもりで手拭いを手渡した長津は、
 「持ち帰って構わないと言いましたが」
 と受け取らない様子であったが、幸枝は頬を緩めている。
 「いやね、長津さん!あの時は私が後ほどお返しするなんて言えば、私たちが定期的に会っていることが分かるからそう仰ったんでしょう?」
 長期に渡るこの「仕事」の中で、彼女も「適切な振舞い」を覚えたらしい。長津は彼女の発言からそう考えた。