「それは私が折り合いを付けます」
長津は即答した。
「でも……」
すっきりしない様子の幸枝を他所に、長津は急に軍服の上衣を脱いだ。
(……⁉︎)
純白の上衣を自身の傍に置いた長津は、落ち着いた調子で話し始める。
「取引相手ではなく知人として話そう。伊坂さん、きっと疎開したほうが良いよ。今後鉄道の規制は更に厳しくなるだろう、その一方で帝都は決して安全ではない。君は賢いひとだから分かる筈だと信じているよ」
都は既に空襲への備えとしていくつかの政策を打ち出している頃である。主計中佐との協力関係の中で戦況の実情を多く捉えていた長津は、本土への攻撃もそう遠い話ではないと確信している。
一方の幸枝は長津の話は脅しでも嘘でもなく真実なのだろうとは思っているが、なぜそれで自分に疎開を促すのかが理解できなかった。
「私が東京に居ないとお仕事になりませんのに、何故長津さんは私に疎開疎開と仰るんです?追い払われているようで良い気分はしませんね」
「君の為を思ってのことだ」
(私のため……?)
幸枝はこの言葉が苦手である。「あなたのため」と言われても、では貴方は私のことをどれだけご存知で、という気分になり、しまいには私のことは私が決める、私のことを知らないで下手に手出ししないで頂戴と思ってしまうのである。しかし、一大企業の令嬢とはいえ若い女性である彼女の考えは、そう簡単に受け容れられるものでもなかった。
「疎開の何が私のためになるんです?」
「此処だよ」
長津の大きな右手は自らの左胸に置かれている。
長津は即答した。
「でも……」
すっきりしない様子の幸枝を他所に、長津は急に軍服の上衣を脱いだ。
(……⁉︎)
純白の上衣を自身の傍に置いた長津は、落ち着いた調子で話し始める。
「取引相手ではなく知人として話そう。伊坂さん、きっと疎開したほうが良いよ。今後鉄道の規制は更に厳しくなるだろう、その一方で帝都は決して安全ではない。君は賢いひとだから分かる筈だと信じているよ」
都は既に空襲への備えとしていくつかの政策を打ち出している頃である。主計中佐との協力関係の中で戦況の実情を多く捉えていた長津は、本土への攻撃もそう遠い話ではないと確信している。
一方の幸枝は長津の話は脅しでも嘘でもなく真実なのだろうとは思っているが、なぜそれで自分に疎開を促すのかが理解できなかった。
「私が東京に居ないとお仕事になりませんのに、何故長津さんは私に疎開疎開と仰るんです?追い払われているようで良い気分はしませんね」
「君の為を思ってのことだ」
(私のため……?)
幸枝はこの言葉が苦手である。「あなたのため」と言われても、では貴方は私のことをどれだけご存知で、という気分になり、しまいには私のことは私が決める、私のことを知らないで下手に手出ししないで頂戴と思ってしまうのである。しかし、一大企業の令嬢とはいえ若い女性である彼女の考えは、そう簡単に受け容れられるものでもなかった。
「疎開の何が私のためになるんです?」
「此処だよ」
長津の大きな右手は自らの左胸に置かれている。



