それからというもの、春子は勝俊からの思いがけない言葉に頭を悩ませていた。
 結婚するのならば自分が誰かの兵役の便宜の犠牲になることは覚悟している。
 裏を返せば、自分と結婚することで誰かの命を救うことができるということだ。
 もし私にその力があるのならば、そして誰かと結婚する運命なのであれば、当然に選ぶのは清士である。
 彼こそ徴兵されればどうなるか分からない人物だ。
 もし検査で嫌われたら?入隊後に悪い噂を流されたら?部隊で除け者にされたら?
 そんな不安が頭の中を駆け巡るのである。
 清士は長男なので幾分か配慮されるはずだが、戦況によっては、あるいは検査官によってはどのような判断になるか分からない。
 自分が彼と結婚すれば新婚ということもあるが、何より父が口利きしてくれる。
 そうなると、士官学校か兵科でもなるべく危険の少ない部隊に配属されるはずだ。
 そして清士は出征してもほぼ確実に帰還できることになる。