「伊坂さん、ずっと僕の側に居てくれ。僕はもう君無しではやっていけないかもしれない」
 食い入るように少女を見つめる少年の目は、回収に奔走する金貸しのようにも、また剥れて菓子を強請(ねだ)る幼児のようにも見えた。幸枝はふっと視線を逸らしたかと思うと、再び歩き始めた。
 「私には立場というものがあるの。ご存知の通り私はただの職業婦人じゃないわ、一企業の娘であり……更には夫人としての立場もあって……貴方はとても魅力的だけれど、四六時中構ってはあげられないわ」
 「それじゃあ、せめて、精神の繋がりだけは」
 目の前に出た清士の発した言葉に、
 「え?」
 幸枝は思わず聞き返す。ただひたすら、顰蹙(ひんしゅく)を買う程に女々しかった。
 物理の繋がり、精神の繋がり──そういった意味だろうか。思案するほどに「精神の繋がり」に好奇心をくすぐられてしまう。
 「貴方のこと、少なくとも嫌いではないわ」
 「いつか君が僕を好きだと言う日が来るかな」
 「成田さん次第ね」
 不敵な笑みが青年の闘争心に火を点けた。