声を潜めた幸枝は続ける。
 「成田さんには特別にお話しするわ。実は、昭二は私たちと血が繋がっていないの。彼の父親は私たちのお父様ではないし、母親も今の私たちの継母で……結論、あの子は伊坂の直系でも傍系でも何でもなくて、確かに戸籍上は紛れもなく伊坂の子だけれど、はっきり言って伊坂の血は引いていないわ」
 悩むような様子の幸枝に対し、清士はカラッとした笑い声を上げていた。
 「何よ、何が可笑(おか)しいの?」
 幸枝も釣られたように半笑いで返す。
 「そうやって困った表情を見せる君も可愛いなあ」
 顔を赤らめた幸枝は、
 「弱ったわね」
 と俯いた。
 「突然気障(きざ)なことを言って……厭に饒舌(じょうぜつ)じゃあないの」
 「気に障ったなら謝るよ」
 爽やかな風を吹かせる清士が、幸枝には憎らしく見える。
 (いつも自信のなさそうなこの人に一体何が起きたのかしら)
 「いえ……いいのよ。そんな成田さんも悪くないわ……それにしても、如何なすったの。半年前とは随分と気質が変わったのではなくて?」
 ああ、と頷いた清士は一口分を残したグラスを片手に話す。
 「そろそろ自分の気持を固めようかと」
 幸枝は覚悟の決まったようなその視線に圧倒された。
 「先月頃から思っているんだが……僕らにも遅かれ早かれ征かねばならなくなる時期がやってくるかもしれない。当然そんな日が来ないに越したことは無いが……僕も何時迄たっても愚図愚図しているわけにはいかないなと考えたわけだ。思ったことは正直に口にして、自分自身に素直になることにしたんだ」
 「へえ……」