(この女の感情は怒りか、悲哀か、それとも──)
 「意地悪な継母だとか、よく有る話よね。シンデレラなんかは正にそうだわ。私はシンデレラとは違う、私の継母は義理の娘を(いじ)めないどころか家族にすらなろうとしないもの!常軌を逸しているのよ!ええ、常軌を逸していると言えば私の実の母もそうだわ!何故私達の元を、お父様の元を去ったのよ!お陰様で今この瞬間に、大変な目に遭っているわ!あなたは実の娘がこんなことになろうとはつゆ知らず、今も何処かで新しい男と遊んでいるのでしょうね!情け無いわ、本当に。もう……」
 罵りと啜り泣きを繰り返す幸枝を見兼ねた長津は、彼女の小さく(すく)んだ肩をぐっと掴んだ。
 傘がパタリとその場に倒れるように落ち、あの低い声が耳の奥にまで響き渡る。
 「それ以上悪態をつくのはよせ」
 「何よ……」
 長津は両手に込めた力を緩めると、衣服を整えるように肩を撫でて手を下ろした。
 一方の幸枝は目前の人間に怪訝(けげん)な視線を向けている。
 「三つ数える、合わせて呼吸しろ」
 「……」
 ゆっくりと一から三を数える長津も幸枝と一緒に深呼吸をして見せた。
 落ち着きを取り戻した様子の幸枝に目線を合わせた長津は、
 「暫く、こうしていよう」
 と優しく彼女を抱き締めた。
 (きっとこれが今の彼女に必要な行動だ)
 自分より数周りも大きい身体に包まれた幸枝は、安心感を覚えるとともに、罪悪感のようなものが後から追ってくるのを感じた。自身が放った言葉を思い出して再び涙が流れる。