幸枝は目をぱっちりと開いて長津を見ていた。
 (よくお喋りになる方だわ。それでも不思議なのは、こうして話を聞いていても全く厭な感じがしないことよね)
 「つい熱く話してしまいました、我々はどうしても誤解を受けやすい職業なので」
 申し訳なさそうにする長津を前に、幸枝は優しく笑って見せる。
 「お気になさらないでください。長津様のような誠実で心優しい方がいらっしゃると知ることができて、嬉しいですよ」
 「そう言って頂けて有り難いです」
 「ええ……」
 幸枝は長津の真っ直ぐな視線からふっと逸れるように足元に目線を落とした。
 大きな硝子戸から差し込む陽は長く、足元の影が向こう側の席まで伸びている。
 暫く喫茶室の高い屋根を見渡していた幸枝であったが、突如としてその目を長津に向けた。
 微睡んだようにも見える表情を向けられた長津は僅かに首を傾げる。
 「……あの、長津さん」
 「はあ」
 少女の膝に乗った両手の指先がもぞもぞと触れ合う。
 「また……お会い出来るでしょうか」
 「それはどうでしょうか」
 長津の戸惑った表情を射抜くように目を合わせた幸枝は続ける。
 「この『お仕事』では『担当者』の方は二度とは同じ方はいらっしゃらない……それは重々承知です。しかし、もう貴方のような誠実でお優しい方にはお会いできないかもしれません。正直な心情を申し上げますと、いくら仕事とはいえ他の士官の方の予測不可能な行動に振り回されるのはもう沢山なのです。そして私は……長津さん、貴方と『お仕事』がしたくなりました」