(また今日も会えなかった)
腕時計を見た春子は、小さく息を吐いて、家路についた。その背中は、いつになくしょんぼりとしている。
とぼとぼと歩いていたとき、不意に誰かにぶつかった。
「痛っ……」
「余所見をするんじゃあないよ、君。きちんと前を見て歩きたまえ」
目の前にはコホンと咳払いをする中年男性が立っていた。
「君、分かったのかね。何とか返事なさい」
でっぷりと肥えた肉体の男性は、春子に返事をするよう促した。
「……しょ」
「何かね?」
「私のことが見えていたならそちらだって避けられたでしょう」
春子はパッと顔を上げ、まだ少し痛みの残る左腕を押さえながら話した。
「そちらも脇見をしないできちんと前を見たらいかがですか」
「なっ……女学生のくせに大風だな、いい御身分だ」
男性が春子の前を去る様子は全くない。
「女学生のくせに?女だから、若いから、全て私の所為になるのですか?」
春子の行先を静かな巨体が阻む。
「退いてください」
「嫌だね」
「退いてください」
「君の謝罪があるまで私はここを動かん」
「退いてください」
「謝罪はないのか」
「ありませんので退いてください」
華奢な少女を見下ろす巨漢と、巨漢を見上げる華奢な少女。二人の目線は拮抗する一直線のようである。
「動かないなら警官を呼びます」
「警官を呼んだとて悪いのは君のほうだ、好きにしたまえ」
腕時計を見た春子は、小さく息を吐いて、家路についた。その背中は、いつになくしょんぼりとしている。
とぼとぼと歩いていたとき、不意に誰かにぶつかった。
「痛っ……」
「余所見をするんじゃあないよ、君。きちんと前を見て歩きたまえ」
目の前にはコホンと咳払いをする中年男性が立っていた。
「君、分かったのかね。何とか返事なさい」
でっぷりと肥えた肉体の男性は、春子に返事をするよう促した。
「……しょ」
「何かね?」
「私のことが見えていたならそちらだって避けられたでしょう」
春子はパッと顔を上げ、まだ少し痛みの残る左腕を押さえながら話した。
「そちらも脇見をしないできちんと前を見たらいかがですか」
「なっ……女学生のくせに大風だな、いい御身分だ」
男性が春子の前を去る様子は全くない。
「女学生のくせに?女だから、若いから、全て私の所為になるのですか?」
春子の行先を静かな巨体が阻む。
「退いてください」
「嫌だね」
「退いてください」
「君の謝罪があるまで私はここを動かん」
「退いてください」
「謝罪はないのか」
「ありませんので退いてください」
華奢な少女を見下ろす巨漢と、巨漢を見上げる華奢な少女。二人の目線は拮抗する一直線のようである。
「動かないなら警官を呼びます」
「警官を呼んだとて悪いのは君のほうだ、好きにしたまえ」



