「何か」
「え?いえ……特に何も」
ぼうっとしていた幸枝であったが、長津の顔を見て目が醒めたように感じた。
「慣れましたか、この仕事には」
「ええ。お陰様で」
「それを言うのは我々の方です。御社に発注したお陰で工廠も動いている」
「それは何よりですね」
陽光の射す喫茶店の二階は、幾つかの人影が疎に見えるばかりで店内自体は明るいものであったが、その雰囲気は何処か寂しいものがあった。
席に着き注文を終えた長津は、周囲を見渡してから封筒を差し出した。
それを受け取った幸枝は静かに鞄の中に入れ、二人の間には何事もなかったかのような風が流れている。
「伊坂さんは、何故こんな仕事をお受けになったのですか」
「何故?何故でしょうか……」
突然投げかけられた問いに、幸枝は考え込んでしまう。
「毎月、こうやって我が軍と取引をしているのでしょう」
「ええ。それでも、私は連絡係のような役割を持っているに過ぎません。実際に交渉をし、工場を動かすのはお父様のお仕事です。私は望んでそれを手伝っているのです」
「女性である伊坂さんがこんな危険な仕事をしなくても良いだろうに」
長津は疑問のある口調で幸枝に問いかける。
一方の幸枝は、はっきりとした口調で突き返すように答えた。
「このお仕事の危険性は充分に理解しています。はじめに御名前は存じ上げませんが、主計中佐の方からもお伺いいたしましたし、毎度『担当者』の方に会うたびに同じことを云われますから。それに、これからは女性も活躍できる時代でしょう。女性だから何だと仰るのですか、私達もあなたがたと同じように働くことはできます」
「え?いえ……特に何も」
ぼうっとしていた幸枝であったが、長津の顔を見て目が醒めたように感じた。
「慣れましたか、この仕事には」
「ええ。お陰様で」
「それを言うのは我々の方です。御社に発注したお陰で工廠も動いている」
「それは何よりですね」
陽光の射す喫茶店の二階は、幾つかの人影が疎に見えるばかりで店内自体は明るいものであったが、その雰囲気は何処か寂しいものがあった。
席に着き注文を終えた長津は、周囲を見渡してから封筒を差し出した。
それを受け取った幸枝は静かに鞄の中に入れ、二人の間には何事もなかったかのような風が流れている。
「伊坂さんは、何故こんな仕事をお受けになったのですか」
「何故?何故でしょうか……」
突然投げかけられた問いに、幸枝は考え込んでしまう。
「毎月、こうやって我が軍と取引をしているのでしょう」
「ええ。それでも、私は連絡係のような役割を持っているに過ぎません。実際に交渉をし、工場を動かすのはお父様のお仕事です。私は望んでそれを手伝っているのです」
「女性である伊坂さんがこんな危険な仕事をしなくても良いだろうに」
長津は疑問のある口調で幸枝に問いかける。
一方の幸枝は、はっきりとした口調で突き返すように答えた。
「このお仕事の危険性は充分に理解しています。はじめに御名前は存じ上げませんが、主計中佐の方からもお伺いいたしましたし、毎度『担当者』の方に会うたびに同じことを云われますから。それに、これからは女性も活躍できる時代でしょう。女性だから何だと仰るのですか、私達もあなたがたと同じように働くことはできます」



