新たな年が始まって二月が経とうとしているが、寒さは和らぐことを知らず顔に吹き付ける風が冷たいばかりである。
 南方での戦争は辛勝続きであったが帝都の市民はつゆ知らず、この国は勝利の道を突き進んでいると信じている。
 父の云ったように、衣料品も点数制になり、街では割烹着やもんぺ姿の婦人が多く出歩くようになった。
 (華やかな服装の人が減ったわね……寂しい冬だわ)
 幸枝はこの日も変わらず会社で働いており、一、二週間に一度来る「仕事」もこなしている。
 例によって「仕事場所」へ向かった幸枝であったが、冬も深まると人を待つのも辛いものである。
 (いつも、時間丁度に来るのよね……それでも早めに来てしまうわ)
 何かあった時のためにと五分早く来ている幸枝は、指先を吐息で温めながら昼下がりの京橋の一角で「担当者」を待つ。
 道ゆく人の衣服はどれも暗い色のものばかりで、数年前と比べると全く味気のないものになった。
 この街では未だ背広の男性も多く見かけるが、国民服の男性が居たり、背中に赤子を背負ったもんぺ姿の婦人が千人針をしていたりとその様相は確実に変化した。
 (千人針ねえ……家庭のあるひとは大変そうだわ)
 婦人のもとに駆け寄った女学生が一針縫う様子を腕組み見ていた幸枝であるが、肩から白い(たすき)を掛けた婦人の集団が視界に入ってきたことに気が付く。
 (また面倒なのが来たわよ。この頃街を歩いていると厭な目で見られることが増えたわね……私だって例に倣って婦人標準服を着ているのよ。あの可愛らしいお洋服を全て仕舞って……嗚呼、あのお洋服たちを着る日はいつ来るかしら)