行ってきますとルイゼルトに伝えたかったが、会議で忙しく言える状態ではなかった。馬車の窓から、居るはずも無い彼の執務室に向かって小さく呟くと、それを合図にするように馬車は動き出す。
向かうは、ハウバース伯爵家の屋敷。城からそう遠くない場所にあり、湖を見渡せる高台の上に豪奢な屋敷が待ち構えていた。
「お菓子も用意してもらったし……着いたら、会話に花を咲かすだけ、でいいのよね?」
シェフにわざわざ用意してもらった焼き菓子を膝の上に置いて、初めてのお茶会での行動を予測しながら、近づいてくる屋敷にいよいよだと意気込んだ。
「いつも通りのファウラ様でいればいいんですよ」
熱くなるファウラに侍女は肩の力を抜くようにと微笑みを浮かべる。
その笑顔に背中を押されて辿り着いた屋敷を前に馬車から降りれば、人形のように綺麗な令嬢が待っていた。
可愛らしいレモンイエローのドレスに身を包み、胸元に咲くようにアメジストのブローチが輝く。
その輝きに一瞬目を惹かれたが、鈴の音のような軽やかな声に背筋を伸ばす。
「お初にお目に掛かります、ファウラ殿下。この度はお茶会へのご参加、誠に嬉しく思います。ハウバース家長女、セーナと申します」
品のある花咲く笑顔に思わず心奪われそうになるが、淑女らしくファウラも挨拶をしようと我を保つ。
「本日はお招きありがとうございます、セーナ様。どうぞ、ファウラとお呼び下さい」
「それではファウラ様、会場へご案内させて頂きますね」
持って来た焼き菓子を控えていた伯爵家のメイドに手渡し、セーナに案内されて辿り着いた庭園は、城の庭園に引けを取らない程、立派なものだった。



