何ら問題を起こさずに式典を終えたファウラの次なる役目は、隣に座る未来の夫の公務の補佐のはずだったが、お堅い顔をしたルイゼルトの放つ重たい空気に、ファウラは酸欠になりそうな思いで目の前の仕事に向かっていた。

 正式に婚約者と認められてからというもの、どこからか広まった絶世の花嫁と呼ばれるファウラを一目見ようと、国内外のお偉い様方々が頻繁に謁見の間に訪れるようになっていた。

 今日もやって来た来賓に作り笑顔を浮かべながら持て成し、過ぎゆく時間をジッと堪えていた。

 慣れない時間に緊張を重ねていくファウラに対して、ルイゼルトの眉間にはしわが刻まれていく。



(式典からここ数日ずっと陛下の機嫌が悪い気がする……)



 ファウラよりも遥かに量が多い仕事をこなしているのだ。この拝謁の時間を確保するのに、仕事のスケジュールを何度も組み直し対応している姿を何度も見て来ているファウラには、仕事の疲れが溜まっているのは見え見えだった。

 だが疲れとはまた違う表情を浮かべるルイゼルトには、怒りが混じっていた。自分が些細なミスを繰り返し起こしていて、却って彼の負担を増やしているのかもしれないと気持ちが沈む。