「殿下になら、問題なく陛下の事を任せられそうです」


「私は陛下のために、人生を捧げる覚悟はありますから」


「ただ、陛下を扱うのは中々骨が折れる事でしょう。何かありましたら、この私をお頼り下さい」




 よろしくお願いしますと頷くファウラに、額に何かが触れる感覚に目を丸くする。



「お近づきの印です。ですが、こういう事にはもう少し危機感を持ってくださいね。私でなかったら、食べられてますよ」


「……は、はい……?」



 言われた言葉を上手く理解できないファウラを置いて去っていくエルディンは、待ち構えていた令嬢を軽々と躱して会場の中に姿を消していった。突然のことに驚きはしたが、ルイゼルトを想う人がいてくれた事に心が温かくなった。

 だが、何処からか飛んでくる刃のように鋭く冷たい視線に、小さく身震いする。周囲を見渡しても、悪しき穢れの力は見えない。

 気合いを入れて踊ったせいかと首を傾げながら、ルイゼルトの元へと急ぐ。



「陛下、傍を離れてごめんなさい」


「……何をしていた」


「エルディン様と一曲踊ってました」


「――なに?」



 低く唸るような声に一瞬怯むが、声を掛けてきた貴婦人の相手をするルイゼルトは至って普通だ。何かの勘違いかと、気を取り直して婚約者として役目を務めた。

 小さな波乱を巻き起こしている事にファウラは気づかないまま、こうして彼女のお披露目式は幕を閉じた。