そんな自分達を、領民を、大切に守ってきた彼が王族に反発するとなると、全てを失いかねない。あの日のように、今度はファウラからエドガーの手を取って大丈夫だと笑って見せる。
「ここまで不自由なく暮らしてきたのも、エド。あなたと街の人達のお陰よ。私は皆に恩返しがしたいし、私だって大切な居場所を……もう誰かに奪われたりしない。婚約を断れば、国王が黙っていないどころか、ルイゼルト王の怒りを買って戦になるって可能性だって十分高い。それだけは絶対に避けなきゃダメ。賢いあなたなら、その理由は言わなくても分かるでしょう?」
引き返そうと今にも言い出しそうなエドガーに諭すように言うと、彼はファウラの手を強く握り返した。
今回の勝算は何もないのだ。分かっていても、エドガーはこのまま他国に大切な人を送り出したくない気持ちをどうしても隠しきれなかったのだ。
「だからと言って、僕が大事な”家族”をほいほい送り出す男だと思う?」
「いいえ。私だって全てを頷いて操られるお人形姫にでも見える?」
「それもいいえだ」
互いに譲らない思いがあるのを感じ取り、小さく笑う。
傍で支え合って来たからこそ、同じように考えてしまうのだろう。
「私は飽く迄も国王や会議の要請で、仕方なく嫁ぐんだから、少しぐらい我が儘……いや特典を強請っても罰は当たらないと思わない?」
「無茶するっていうなら、今すぐにでも止めるけど」
「私に口喧嘩で勝ったことないくせに」
「あのねえ……仮にも自分が一国の姫って事自覚あるの?」
「多くの修羅場の乗り越えてきた私が、か弱いままだと思わないことね」
忌み嫌われ、命の狙われた日は数知れない。その分だけ、ファウラは逞しくなったのだ。どれだけ辛かったとしても、過去が自分を大きくしてくれたなら恨む必要も無い。
守ってくれた家族を今度は自分が守る番が来たのだと思えば、不思議と先の未来のことは怖いとは思わなかった。
真直ぐ見つめてくれるエドガーの瞳を、逸らすことなくファウラは考えを口にした。