緊張が解れて行く感覚に、ありがとうと花達に微笑を浮かべて歩く。土の微かな香りは何処までも続いていく広い大地を感じさせ、そのちっぽけな一部分に立っているんだと思えば、少しだけ気持ちが軽くなった。

 結い上げた髪に止めた髪飾りに触れれば、今度は勇気が湧いてくる。

 先に拝謁のために動き出していて、今日は一度も顔を合わせていない。



(不思議ね。陛下を想うと心が落ち着く)



 紅い瞳と同じ髪飾りが、太陽の光を纏って影を落とす。光を浴びながら庭園をしばらく歩くと、奥から見知らぬ声が聞こえてきた。

 足を止めて、遠くから聞こえる声によく耳を澄ます。



「いやはや、まさか陛下が婚姻を結ぶことになろうとは」


「驚かない方がおかしいでしょうなあ。あの悪魔王が人間の心をお持ちだとは到底思えまい」


「どうせ、陛下の暇潰しでしょうな」



 嘲笑いながら会話するのは、どうやらルイゼルトを良く思っていない何処かのお偉い様方だと悟る。王宮でも、似たような陰で囁く者達を多く見てきたファウラにとっては、すぐに分かった。