「うわあ……馬車があんなに沢山……」




 自室の窓から見える次々とやってくる馬車の数を数え、そこに乗っているであろう人の数を数え出したらきりがないと、無理矢理視線を窓から引きはがす。

 やってきた式典当日。ファウラは完成したドレスに身を包み、普段よりも人一倍気合が入っている侍女達に化粧を施されていた。

 自分主役となってここまで盛大な事をされた事がないファウラにとって、緊張の嵐が襲ってきていた。

 城に集まるのは国を支える貴族や、同盟国の大使など、各地の権力者達が揃いも揃ってやってくるのだ。王宮内で、それなりの作法やマナーは心得ているつもりだが、不安は拭えない。



(陛下との城内での初めての顔合わせの時も、気が付けば淑女らしからぬ言葉と態度だったし、今回は本気で挑まないと陛下の顔にも泥を塗ってしまう)



 なるべくルイゼルトと会話する時も訓練だと思って淑女らしく振る舞えば、似合わないと笑われ最終的にいつも通りの街娘のファウラになってしまっていた。

 それだけでなく、侍女やユトにも王女らしい態度を見せれば、体調が悪いのかと心配される始末に、肩を落とすしかなかった。

 今日一日、例え知っている人物から不思議な目を向けられても、初対面の人間に王女としての態度を見せつければそれでいい。

 気を抜かないよう、やるべき事をしっかりと頭に入れ込もうとするが、やはり緊張は消えていかない。




「式典まではまだ少し時間はあるし、庭園にでも行こうかな」




 ドレスを汚さないように移動し、辿り着いた庭園が優しい香りでファウラを出迎えた。