クラネシリアにやって来た時よりも多くの人が行き交っていて、街では有り得ない程の賑やかさに胸が躍った。
「凄い人……」
「ファウラの事を歓迎する祭りで大賑わいだな。式典までは日があるというのに、気の早い奴らだ」
慈しむ目で王都に住む民を見つめるルイゼルトは、悪魔王と称されるのには掛け離れていた。彼の誤解を解く方法は、無いのだろうかと考えるものの、見たこともない屋台に目が眩む。
「興味あるのか?」
「こんな大きな祭りを見るのが初めてで」
また食いつくように見入っていたのかと、慌てて窓の外から視線を逸らす。また何か言われるだろうかと、身構えていると、ルイゼルトは悪巧みをするかのような目で小さく笑う。
「買い物は買い物だ。姿をバレないようにすれば、屋台の一つや二つ見ても怒られないだろ」
「え、お祭り行くの?」
「ユトには内緒だからな」
(つまり、お忍びってことね)
何処から持ち出して来たのか分からないフード着きのマントを着て、エスコートされながら馬車から降りたファウラは自然に繋がれたままのルイゼルトの手に意識しないように、賑わう王都へと足を踏み入れた。
そこらじゅうから漂う食べ物の良い香りに、視線があちこちと動いてしまう。
「っと、危ねえ……」
行き交う人とぶつかりそうになるのを、ルイゼルトはファウラの腕を引っ張って胸の中にすっぽりと収めた。
「人が多い。逸れるなよ」
「う、うん」
こんな大勢の前で密着するとは思わず、ぎこちない返事にルイゼルトは物足りなさそうに解放した。